PMOを始めた頃、私は「優秀なエンジニア = 技術力が高い人」だと思っていました。
仕様書を読みこなし、コードを書き、難しい問題を解く人。それが優秀さの定義だと、ほぼ無意識に信じていました。
でも、PMOとして現場を見てくる中で、その定義は静かに崩れていきました。
技術力が高くても、現場で頼りにならない人がいます。 逆に、技術評価で目立たないのに、「この人がいないと回らない」と全員が無言のうちに認めているエンジニアがいます。
5年目を過ぎたあたりから、私の中の「優秀さ」の輪郭が変わってきました。
PMOの立場で見てきた人たち、そして同業のエンジニアに話を聞く中で印象に残った人たちを思い返してみると、大きく3つのタイプに分けられました。
この記事は、そのタイプを実際のエピソードを交えて言語化してみる試みです。「こんな人いるよね」と頷けるエンジニアもいれば、「自分はこの軸が足りないかも」と気づくエンジニアもいるかもしれません。
PMOの主観であることは最初に断っておきます。これは技術評価の話ではありません。プロジェクトを回す立場から見た、信頼の根拠の話です。
Type 1:カオスを構造に変える人#
どんな人か#
複雑な作業を、「他人に渡せる粒度」まで分解できる人です。
仕事の見えていない部分を可視化して、誰がいつ何をやればよいか整理できる。マネジメントの素養を持ったエンジニア、と言ってもいいでしょう。
印象に残っている2人#
1人目は、あるチームのリーダーです。
5人のチームで、あるソフトウェアの引き継ぎとリプレイスを担当することになったときの話です。引き継ぎもリプレイスも、最初の時点では何も決まっていません。 どこから手をつけるのか、何が課題なのか、誰が何を持つのか——すべてが未定のまま、スタート地点に立たされます。
普通なら、PMOの私が課題を洗い出し、粒度を揃えて、各メンバーに割り振る作業が必要になります。けれどそのリーダーは、今ある課題を自分で整理し、誰がどの課題に取り組むかまで決めてしまいました。 それでようやく、チームが動き始めたのです。
ここで効いていたのは技術力ではありません。まだ形になっていないものを、人に渡せる形へ変える力です。引き継ぎやリプレイスのように前提が曖昧な仕事ほど、この力があるかどうかで立ち上がりの速さがまったく変わります。
もう1人は、配属2年目の若手です。
経験年数からすれば早すぎる登用で、ある案件のリーダーを任されることになりました。年次だけ見れば、不安を持たれてもおかしくない抜擢です。
けれど結果として、工程管理もスケジュールの組み立ても、案件の完遂までやり切りました。
ここで感じたのは、「整理する力」は経験年数と無関係だということです。むしろ「年次が浅いからまだ無理だろう」という前提のほうが間違っていました。
「優秀じゃない人」との違い#
このタイプの逆は、「タスクの粒度が荒い人」「スケジュールと実績がいつもズレる人」です。
タスクが粗いと、PMO側が常に追加で分解しなければなりません。実績がズレると、リカバリープランをPMO側で持たなければなりません。結果としてPMO側の負荷が倍になります。
Type 1の人がチームにいると、この負荷が劇的に減ります。
このタイプの本質#
「自分の手元の作業が見えている」だけでなく、「他人の手元の作業まで見えている」。さらに、それを他人が動ける形に変換できる人。
ここに、私が「優秀」と言いたくなる根拠があります。
Type 2:プレッシャー下でも精度が落ちない人#
どんな人か#
焦り・トラブル・単調作業の中でも、品質が安定する人です。
時間に追われても、繰り返しの作業でも、最後の1個まで同じ精度で仕上げられる人。
印象に残っているシーン#
これは自分が同じ現場で見たことではなく、別のエンジニアから聞いた話です。
小さな会社で社内のLAN構築をしていたときのこと。予定していた長さのLANケーブルが納品ミスで届かず、手元には裸のLANケーブル(端子のついていない状態のもの)と端子だけが残ったそうです。
人手が多い会社ではなかったので、その場にいたメンバーで分担して、現場で1本ずつ作ることになりました。最終的に100本を作り切って、全部繋がったとのことです。
LANケーブルを自作したことがある人なら想像がつくと思いますが、1本作るのに最低でも1〜2分はかかります。しかも緊急対応の最中です。
この話で印象に残ったのは、本数でも速さでもありません。「できない理由」を探す時間がほぼゼロだったことです。納品ミスは自分たちの落ち度ではないのに、誰も止まらずに手を動かし始めている。
「精度を落とす人」との違い#
こういう単調な作業は、途中から精度が落ちるのが普通です。気が散ったり、雑になったり、確認が甘くなったり。
差がつくのは技術ではなく、自分が集中を保てるリズムを知っているかどうかだと思っています。短い区切りで手を止めて、また戻る。このリズムを持っている人は、量が増えても最後の1本まで品質が変わりません。
逆に、最後まで一気にやり切ろうとする人ほど、終盤で雑になります。
このタイプの本質#
「焦りを行動に変えない」「リズムを作れる」。
緊急対応で投入されたとき、このタイプの人がいると現場の温度が下がります。安心感がチーム全体に伝わるからです。
「誰でもできる作業を、誰よりも安定して終わらせる」──プロジェクトの隠れた屋台骨は、こういう人たちが支えています。
Type 3:チームの「答えの源」になる人#
どんな人か#
質問が集まる人。仕様・知識・経験が引き出せる場所になっている人です。
チームの認識ハブ、と言ってもいいでしょう。
印象に残っている2人#
1人目は、インタビューで聞かせてもらったベテランエンジニアの話です。
インフラ案件で、お客さんの予算が限られている状況だったそうです。普通なら「この予算では難しいです」と言いたくなる金額。けれどその人は、ハードウェアもミドルウェアも幅広く知識を持っていて、「この組み合わせなら、予算内で機能要件を満たせる」という具体的な提案ができたとのことでした。
予算ありきで構成を考えるのは、知識の総量が試される作業です。「これなら使える」「これは古いから避けたほうがいい」「これは安いけど運用コストが高い」──こういう判断を素早くできる人は、年齢を問わず多くありません。
もう1人は、プロジェクトの発足初期から在籍しているメンバーです。
強みは、仕様の経緯をまるごと記憶していること。別チームから「この仕様って、なんでこうなってるんですか?」と質問が飛んでくると、少し考えてから「あのときの要件定義で、こういう経緯で決まりました」と確信をもって即答できます。
仕様への即応性は、情報のストック量 × 検索性で決まります。この人は両方を持っていました。
共通する2つの能力#
この2人を見ていて気づいたのは、「知識を持っているだけ」では足りないということです。
優秀な「答えの源」になる人は、2つの能力を持っています:
- 知識の収集能力──吸収しに行く姿勢、新しい情報をキャッチする習慣
- 人に説明できる能力──吸収したものを、他人が理解できる形で出せる
知識を持っているけど、説明が下手な人は意外と多いです。逆に、説明は上手だけど知識が浅い人もいます。両方持っている人が、本当の意味で「答えの源」になれるのです。
このタイプの本質#
このタイプがチームにいると、チーム全体の認識が揃います。
SIerの現場でよくある「同じ仕様を10人が違って解釈する」という事故が起きにくくなります。なぜなら、迷ったときに聞ける場所があるからです。
これは目に見えにくい価値ですが、プロジェクト全体のリスクを確実に下げています。
3タイプに共通する「優秀さの本質」#
3タイプを並べてみると、技術力とは別の、もっと深い共通点が見えてきます。
Type 2:精度を落とさず最後まで完遂する
Type 3:知識を蓄えて他人に渡せる
──全部に共通するのは、「他人を助けられる」という1点です。
Type 1は、PMOやチームメンバーの「割り振り作業」を肩代わりしています。 Type 2は、緊急時の「精度の不安」を取り除いています。 Type 3は、チーム全体の「認識のズレ」を埋めています。
優秀なエンジニアは、自分が突出しているのではなく、チーム全体の総和を底上げする力を持っています。
技術力が高いだけでは、自分の手元しか変わりません。 他人を助けられる人だけが、現場全体を変えていきます。
これが、PMOとして現場を見てきて、私が辿り着いた結論です。
PMOからの感謝──彼らがいた現場の話#
この記事を書きながら、思い出していたことがあります。
ここで紹介した人たちは、立場も経験年数もばらばらです。自分が同じ現場で見た人もいれば、人から聞いた話もあります。けれど共通していたのは、彼らがいた現場は例外なく「回っていた」ということでした。
PMOの仕事は、リスクを管理することだと言われます。でも実際には、「リスクを下げてくれる人を見つけること」の方が大きいんじゃないかと、私は思っています。
- Type 1のエンジニアがいれば、私は割り振りの精度に悩まなくて済みます。
- Type 2のエンジニアがいれば、私は緊急対応のクオリティに悩まなくて済みます。
- Type 3のエンジニアがいれば、私は仕様の食い違いに悩まなくて済みます。
一緒に仕事をした人たちは、私の仕事を静かに楽にしてくれていました。
PMOとして現場に立ち続けている今、感謝を言葉にする機会がないままでしたが、もしあのときの彼らがこの記事を読むことがあれば、伝えたいことがあります。
あなたたちがいたから、あの現場は完成したんだよ。 と。
あなたへの問い#
──ここから、読んでくれているあなたに問いかけたいです。
あなたがPMOで現場を見ているなら、どのタイプの人と組んでみたいでしょうか?
Type 1の構造化能力に頼りたい人もいれば、Type 2の精度に救われたい人もいるはずです。Type 3のような「答えの源」を、自分のチームに迎えたい人もいるでしょう。
組みたい相手を考えることは、自分のチームに今足りない軸を見つけることでもあります。
もし「うちのチームには、こういうタイプがいる」「自分はこれだ」と思った経験があれば、ぜひお問い合わせフォームから教えてください。
PMOキャリアラボでは、現場のリアルな声を集めて記事にしていく予定です。